先日、機会があり有田先生(東邦医大)のセロトニンの話を伺いました。 科学的根拠の点で、論争があったようですが、仮説としてとても興味深い話で、大変楽しく傾聴させて頂きました。 古くから、心身に良いとされていた事柄を、脳内セロトニンの活性化としてとらえると非常に理解されやすく、特にこれまでの古来からあるボディワークの類にとっては、効果を説明するに非常に便利と思います。 脳内セロトニンの活性化は、陽に当たる、リズム運動、そしてグルーミングで確認されたそうです。セロトニンと体内時計と深く関係するメラトニンとは非常に密接なつながりもあり、「朝一番で陽にあたる。」の効用を脳内セロトニンの活性化として説明できると言います。 また、リズム運動は、腹式呼吸、腹式呼吸を大切にする座禅、ヨガ、太極拳、読経や、咀嚼、歩行等と言った、古くから心身に良いと言われるものを、やはり脳内セロトニンの活性化として説明ができますし、リズム運動の代表とも言える歩行ももちろんセロトニンの活性化が認められるそうです。 ただ、グルーミング(これはおそらく動物実験だと思いますが)では、セロトニンの脳内活性化が認められるものの、マッサージではどうも期待されるほどの活性化が得られていないと言ったお話もありました。また、踏み台昇降と言った運動でもおしゃべりしながらの”ながら運動”では十分な活性効果は得られないのだそうです。 もともと、セロトニンは”うつ”との関連が確認され、またストレスや疲労でセロトニンの活性化は抑制されることを踏まえ、セリグマンが検証した学習性無力感(犬に行った実験)はこの脳内セロトニンの活性化が抑制された結果と言えるのではないかとも、私の質問に対してお話しして頂けました。 このストレスと疲労は、確かにセロトニンの活性化を妨げるようですが、実は、シベリアで抑留体験のある方へのインタビューでは、疲労、栄養不足、そして人間扱いされないような環境での強制労働、つまり強烈なストレス下に居ながら、”うつ”にはならなかったようです。確かに、如何に体力を温存するかと言った無気力的な活動ではあったものの、一般的な”うつ”では無かったようです。 その理由を、その方は「仲間の存在」と答えていました。日本に戻れるなどという期待はなく、自己効力感など持てない状況下でありながら、「そこに仲間がいたから」なのだそうです。 セロトニンと言う、脳内における生理的作用は、人の行動などを説明するにとても理解しやすい素晴らしい考えだと思います。 ただ、しかしそれは、自分自身でも、他人を通してでも自分自身の存在を確認する、自分自身に注意を向けると言う、基本姿勢に基づき生じる現象でもあるようです。機械的に動かすだけでは、セロトニンの活性化は期待されるほどのものではないようですね。このことにも十分配慮が必要ではないでしょうか。